さっきから目の前の彼女のパスタがちっとも減らない。

 

 

フォークでパスタをすくっては巻き、すくっては巻き、を繰り返す。

けれどそれが彼女の口元まで運ばれることはない。

パスタが絡まったまま、フォークは静かに皿の上に横たわる。

 
 

そうしてしばらくするとやがてまた思い出したようにフォークを手にして。

すくっては巻き、すくっては巻き。
 

 

さっきからその行為を何度となく繰り返してる。

行儀の悪い子どもみたいに。

 

 

 「あのね、昨日ネットでね、占いをやってみたの。

 タロット占いだったんだけどね、いい結果が出なくてさ。

 いい結果が出るまでクリックしようと思ったの。

 何度も何度もカードをクリックし続けたの。

 そうやってそれ繰り返してたら、気がつけば朝だった。」

 

 

狂ってるでしょ、と彼女は言った。

唇の端を無理に引き上げて。

 
 

(・・・・だから、さっきからそれ、笑えてないんだってば。)

 
 
 

ああ。

空はこんなに青いのに。

風はこんなに暖かいのに。

太陽はとっても明るいのに。
 
  

(どっかで聞いたような・・・・なんの歌詞だっけ。)
 

 

それにしても一向に目の前の彼女のパスタは減らない。

冷めてゆくパスタが余りにもかわいそうで。

とうとう言ってしまった。
 
 

「ね、パスタ食べなよ」
 
 

うん、と言ったか言わないか。

小さな掠れたような声が聞こえた気がした。

 
 
 

確かめるべく彼女に目をむければその瞳からは大粒の涙。
 

 
 
・・・・やがてフォークを手にして。

パスタをすくっては巻き、すくっては巻き。

  

 

 

そして私は途方に暮れる。
 

 

 

 
 

どんな言葉も薄っぺらい気がして。

結局何も言えなかった。

 

 
 
 

ああ。

空はこんなに青いのに。

風はこんなに暖かいのに。

太陽はとっても明るいのに。

 
 
 

 

(・・・・どうして。)
 

 

 

 

目の前の彼女のパスタは減らない。

  

            

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