昔一度だけ母親の涙を見たことがある。

  
   
         
テレビでは懐メロ特集をやっていた。

馴染みのない歌手が古臭い歌を歌っていた。

チャンネルを変えようとして振り返ると。
  
母が泣いていた。


  

  

声を殺して。表情を消して。

頬に光る涙を見なければ泣いているとわからないくらい。

静かに、静かに、泣いていた。

    

  

  
小学生だった私はとても動揺して。

見てはいけないものを見てしまった気がした。

慌ててテレビに顔を向き直し、そのまま動くこともできずに。

その物悲しい歌をぼんやりと聴いていた。
   
  
  


  


     
私にとっては古臭くてつまらない曲。

でも母親にとってはそうではなかったのでしょう。
   


  
   


  

  
そして今。

ふいに流れてきたのはビリージョエルの「ピアノマン」。
  

  


    
あの人はこの曲が好きだった。
   
あの頃の私はハードロックが好きだったから。

借りたCDも聴いたのは結局3、4回だったけど。


   
 

  

  
この曲が好きだったあの人を。

この曲が好きだとあの人が言ったあの場面を。

  
    


  
ビリージョエルの歌声とピアノが鮮やかに思い出させる。

   

   

  


  
いい曲だ。

今、はじめてそう思った。

   


  


   


   
そして気がつけば私は。

声もなく泣いていた。

   

 
  

   
   
あの頃の母親と同じように。


   


       
 
   
  

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